Episode さんびゃくさんじうきう 『 アイム レフティ (2009125)

太鼓を教える時、生徒の皆さんと向かい合わせになって指導する。
左利きである私の手の動きを、生徒さんたちは鏡を見るようにして打つことができるので、言葉で説明するよりもわかりやすい。
そんな稽古を、京舞・井上流では「対面稽古」、「左稽古」と呼ぶそうだ。
お師匠さんは左利きではなくても、舞妓さんや芸妓さんに指導する時に、そのようにする。

小学校に入学するとすぐに、担任の先生から左利きを右に矯正された。
休み時間には右手で鉛筆を持ち、小さなワラ半紙にひらがなや蚊取り線香のような渦を何枚も書いた記憶がある。
それは苦にはならず、むしろ楽しかったので、やがて右で字が書けるようになった。
自分が左利きでありながら、左手で字を書いている人を見ると、「書きにくそうやなあ。
(書き辛そう)」と思ってしまう。
ただ、矯正されたのは“字を右手で書く”ということだけだったので、今でも絵を描く時は左手なのが我ながらおもしろい。

高校3年の時、聴覚障がい者の人と出会った。
「音のない世界」、そこに手話という手段で会話をしているのを見て非常に興味を持ち、受験勉強もそこそこにその人から手話を教わった。
しかし、見たまま真似したので、手話が逆になってしまった。
そのことを手話通訳している先生に指摘され、指文字だけは右に戻したが、手話は直らなかった。
やがて、市役所の「手話初級講座」の講師になった。
そこで、私の「逆手話」を、生徒さんたちはそのまま真似していた。
一度逆になった手話が、元に戻ったということになる。

「鬼太鼓座
(おんでこざ)」では“左の強化”のために、座員は左手で箸を持って食事をしなければならなかった。
であるならば私は右手で箸を持つべきなのに、他の座員と同じように左で食べていた。
ある日の公演後、主催者の方が設けた宴の席でおっしゃった一言、
「さすがはやはり、聞きしに勝るといいますか、鬼太鼓座の皆さん全員、左手で箸をお持ちになっておられ…ほう。」
私「……」

意外なこともある。
作家である友人の家にお邪魔した時、ホロ酔い気分の彼がギターを持ち出してきた。
ところが、構えているギターの向きが逆ではないか。
見ると弦も逆に張られており、そこで彼が左利きであることが判明。
器用に弾く彼のギターを聴きながら、赤ワインをクピッ。
私もギターを弾くが、左用の弦の張り方があるとは知らなかった。

以前、左利きの人のためのお店「レフティ」に、左利き用ハサミがあったので、試しに買って使ってみた。
が、うまく切れない。
その後、それは一度も使うことなく、どこかへいってしまった。
ある日突然、「これは左利き用です。」と言われても、私にとっては逆に使い勝手が悪いのであった。


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